上場株式等の相続税評価額の見直し

平成29年度税制改正要望が各省庁から出揃いました。これから、ちょくちょく要望内容について現行税制を踏まえながら確認していきたいなと思っています。

上場株式等の相続税評価額の見直し

金融庁からの税制改正要望です。金融庁ウェブサイト
http://www.fsa.go.jp/news/28/sonota/20160831-3.html
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・現行税制
例えば、相続開始日(亡くなった日)が、2015年12月22日だった場合の上場株式等の相続税評価額は、
①亡くなった日の終値(2015年12月22日)
②亡くなった日が含まれる月の平均終値(2015年12月)
③亡くなった日の前月の平均終値(2015年11月)
④③の前月の平均終値(2015年10月)
のうち、最も低い価額で評価します。今回のケースでは、2015年12月22日の終値で評価することになります。
現行税制の問題点は、上場株式等の価格が著しく減少してしまった場合です。分割協議等、つまり、相続人がどの財産を取得するか決まるまでは、株式等を売買することが困難です。すぐに財産の分与が決まれば良いのですが、なかなか決まらないケースがあります。また、相続が始まると亡くなった人の財産が何があるのか、まず、全部把握しなければなりません。亡くなる前に財産目録でも作成してあれば良いのですが、財産の調査に時間がかかります。その結果、分割協議が完了したのが、仮に8ヶ月後だった場合、その時点での株式等の時価は、440円です。相続税評価額から18.89%も下落してしまっています。なおかつ、上場株式等を長期保有したまま、相続するケースがあり、440円の時価で売却した場合でも、売却益が生じることにより所得税(復興税含む)15.315%、住民税5%が課税されることがあります。

・税制改正要望
現金への換金性は高いといっても価格が変動するリスクがあるので、現行税制の相続税評価額の90%相当額とすること。また、価格の変動が著しい場合には、相続税確定申告時や分割協議等完了時点の時価などを評価額とする特例を創設することです。
現行税制では、上場株式等を売却し、現預金で保有するか、相続税対策等を考慮して不動産等に資金が流れる傾向になってしまいます。日本は、家計金融資産の約52%が現預金であり、所得税法のNISA制度の促進など、株式等の金融資産への投資を呼び掛けている現状です。その状況から相続税法でも足並みを揃えたいという所でしょうか。

今までも価格変動リスクが問題視されてきました。しかし、税制改正要望が整わず、現行税制のままの可能性が高いです。その場合、上場株式等の価格変動リスクを減らすこととして、生前のうちに財産目録を作成しておきましょう。相続、分割協議等をしていくにあたって、あらかじめ財産を把握していることは、非常に大事なことです。意図しない申告漏れや相続人は亡くなった人の財産が何かということは意外と知らないので、財産の把握が長期化してしまう恐れがあります。現行のままでも、改正されたとしても、財産目録は作成しておきましょう。
また、上場株式等の取得価額が不明な場合が極稀にあります。そのような場合には、最悪、売却した価額の95%分に所得税(復興税含む)15.315%、住民税5%が課税されることになります。通常は、売却代金から取得価額を差し引いた金額に対しての課税なので非常に大きいです。もし、取得価額が不明な場合には、一度、売却して税金を支払っておけば、財産はその分、減ります。相続してから売却するよりも有利です。