平成31年税制改正大綱~仮想通貨取引の所得計算~

先日、平成31年度税制改正大綱が公表されました。

自民党、平成31年度税制改正大綱PDF:
https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/138664_1.pdf?_ga=2.54110056.1785174464.1544832168-704385204.1544832168

今後のスケジュール

税制改正の法律案が国会に提出され、来年の3月下旬ごろ国会で成立、公布され、4月1日施行という流れが一般的です。

したがって、まだ、内容は変わる可能性があります。

今回の税制改正大綱については、法人がメインになります。

個人に関しては、税制改正大綱36P

記載されている範囲においては、既存のFAQと同様であり目新しいことはありませんが、税制改正大綱に記載されていることは所得税法の条文として取り扱いが明記されることになります。

個人に関しての詳しい内容は、こちらのFAQなどを参考に。
国税庁:仮想通貨関係FAQの公表について
http://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2018/faq/index.htm

次に法人に関する記載です。税制改正大綱74P

①仮想通貨の「期末評価額」は、時価評価により損益を計算することになります。

「活発な市場が存在する仮想通貨」と、会計基準で曖昧な表現された部分で、国内の交換所で取引されている仮想通貨なのか国外の交換所で取引されている仮想通貨なのか不透明なところはありますが、注書きにある経過措置の扱いから考えて、原則は時価評価を基準にしていることがうかがえます。

注書きには、改正前に始まっている事業年度分(1年に満たない猶予)は、いままで通り、取得原価基準でOKです。
しかし、平成31年4月1日以後に開始する事業年度からは「活発な市場が存在する」のであれば「時価評価」となります。

会計基準の時もそうですが、決済に使われるという観点から有価証券よりの評価基準ではなく、外国通貨の評価基準よりな感じの流れです。

仮想通貨を決済するものと捉えるのか投資(金融商品)と捉えるのかと両方の側面があると考えた場合に、決済よりに重きを置いた判断をくだしているのかなぁという印象です。

中小法人に関しては、青色欠損金の繰越控除(10年)青色欠損金の繰戻還付(1年)があるので、年度のばらつきは何とかなるということでしょうか。

②譲渡損益の計上時期は、「譲渡契約日」になります。

株式のように約定日と受渡日にズレが生じたときにどちらを譲渡損益の計上日とするかと同様に、仮想通貨の譲渡損益の計上時期を明確に「譲渡契約日」とした。

ビットコインの0承認で、当事業年度と翌事業年度を跨ぐような場合?があれば、当事業年度で契約が成立して譲渡したとして譲渡損益を計上するということなど曖昧な部分を減らすために明確に織り込むということですね。

③仮想通貨を譲渡したときの原価(売却した仮想通貨に対応する購入金額)の計算方法は、「移動平均法」または「総平均法」になります。

最終仕入原価法や先入先出法など棚卸資産で採用されるような評価方法は無理そうです。

④仮想通貨の信用取引等(FX)の扱いは、みなし決済になります。

時価評価みたいなもので、事業年度末に決済(売却)したとみなして所得計算をすることになります。

⑤その他所要の措置を講ずる。

税制改正大綱では詳細の細かい条文内容まで記載していないと考え、外貨建資産の条文をベースに仮想通貨の条文を作成するとすれば、願望を含め、外貨建資産も発生時換算法、期末時換算法があるように、保有目的に応じて、長期と短期で評価方法は例外的に選択可能になるのでは?と思っています。
と言っても注書きからすると時価評価一択な感じが否めませんが。
しかし、決済寄りの考え方が強すぎる気がします、仮想通貨と言えど…暗号資産という呼び方になるらしいし。

法人は、継続して事業を行っていくことが前提になっているので、時価評価という部分に関してはしょうがないかなという思いもありますが、含み益に課税されてしまうので、税金分について機会損失が生じてしまうのが非常に大きい。

しかし、法人で時価評価しないとそれはそれで、その事業年度の所得計算が複雑になってしまうので、期中の仮想通貨の譲渡損益の計算に間違いが生じていたとしても時価評価損益を計上することで最終的な所得の誤りをなくすことができる点では時価評価もアリではないでしょうか。

目的や性質などによって選択する権利が残っていると良いなと思います。

仮想通貨に関して久しぶりに書いたので、ついでに個人の仮想通貨のFAQにもちょっと触れておこうと思います。

だいぶ長文になってますが…。

国税庁のHPにて、「仮想通貨関係FAQ」が公表されました。

国税庁:仮想通貨関係FAQの公表について
http://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2018/faq/index.htm

所得税関係でのポイントは、国内交換所から「年間取引報告書」が今年度分から送付され、「仮想通貨の計算書」に基づいて、申告が出来るようにしていくということです。

納税者側の利便性向上だけでなく、年間取引報告書によって税務所側の情報収集や申告是正などもしやすくなるということです。

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国税庁では、このように、納税者自身による適正な納税義務の履行を後押しする環境整備を図り、周知・広報を行うとともに、様々な機会を捉えて課税上有効な資料収集に努め、申告のなかった方も含め、課税上問題があると認められる場合には、様々な方法で是正を促すなど、仮想通貨取引の適正な申告に向けて積極的に取り組んでまいります。
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あとで困ったことにならない様にきちんと確定申告をしていくことが必要です。

いつごろ、「年間取引報告書」が発送されてくるかわかりませんが、それとは別に準備しておかなければいけないことがあります。

まず、当然ですが、「国内」の交換所だけですので、「国外」の交換所は、年間取引報告書は提供してもらえないので、自分で購入、売却等を集計しなくてはなりません。

また、国内の交換所しか利用していない人でも、年間取引報告書に記載されている事項だけでは、計算できない可能性があります。

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仮想通貨FAQ10の答え

年間取引報告書の各欄には、次の事項が記載されています。

①年始数量 :その年の1月1日現在の仮想通貨の保有数量
②年中購入数量:その年の仮想通貨の購入数量
③年中購入金額:その年の仮想通貨の購入金額
④年中売却数量:その年の仮想通貨の売却数量
⑤年中売却金額:その年の仮想通貨の売却金額
⑥移入数量 :その年に購入以外で口座に受け入れた仮想通貨の数量
⑦移出数量 :その年に売却以外で口座から払い出した仮想通貨の数量
⑧年末数量 :その年の 12 月 31 日現在の仮想通貨の保有数量
⑨損益合計 :その年の仮想通貨の証拠金取引の損益の合計額
⑩支払手数料 :その年に仮想通貨交換業者に支払った支払手数料の額
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具体的には、コインチェックやZaifの不正流出事件の取扱いがどうなっているのか。

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仮想通貨NEMの不正送金に係る補償について

補償日時:2018年3月12日中
補償金額:88.549円 × 日本時間2018年1月26日 23:59:59時点での保有数
補償対象:日本時間2018年1月26日 23:59:59時点でNEMを保有していたお客様

Coincheck:不正に送金された仮想通貨NEMの保有者に対する補償について
https://corporate.coincheck.com/2018/03/12/47.html
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Zaif:お客様流出資産の補償に関して
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000097.000012906.html
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年間取引報告書なので、補償部分は、売却価額には反映されていない可能性があります。

コインチェックの流出に関連して、国税庁のタックスアンサーで取扱いが公表され、原則的には非課税ではなく、所得計算に含める事になります。

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国税庁:No.1525仮想通貨交換業者から仮想通貨に代えて金銭の補償を受けた場合
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1525.htm

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従って、補償分に関する金額を別に集計してこなくてはなりません。

Zaifに関しても同様の事が言えますが、現在、Zaifに関しては、補償が確定していません。
このまま、年度を跨ぐような場合には、年間取引報告書の年末数量について注意する必要があります。
平成31年分の所得計算において、保証金額からマイナス出来る必要経費の部分に影響してくるためです。

蛇足ですが、この部分に関しては、未だ結論が見えないので、悩ましいところなのですが、免責条項等を踏まえれば、補償金がない可能性もあり、既に損失は確定しているので、平成30年分に損失(必要経費)を計上することも可能ではないかと考えられます。

そのほか、移入数量や移出数量の中にも個人間売買が含まれている場合、アフィリエイトやログインボーナス等を仮想通貨で受け取った場合、購入数量等に反映されているのかなどを確認し、含まれていなければ別途集計します。

また、年間取引報告書をベースに計算する方法は、「総平均法」とよばれる計算方法になります。

今年の仮想通貨の価格は年始から年末に向けて下落しています。

年始に売却等をして利益が出ている人で含み損を抱えている状況にあるのであれば、一旦、損失を計上するために売却し、利益と相殺することで今年の納税額を抑えることができます。

しかし、年間取引報告書は来年にならないとないので、今時点の取引高等がわからずどのくらいの利益見込みか把握しづらいです。
損失を計上しすぎても翌期に繰り越すことが出来ません。

年間取引報告書ベースでの申告を促すため、仮想通貨FAQ11において、「移動平均法」からの変更も可能であることを明確にしていますが、損益の状況を踏まえ不利にならない様にする必要があります。

純粋に取引だけ行っている場合、年間取引報告書の存在はありがたいですが、そのほかにも色々やっている人は、年間取引報告書の中身を把握し、漏れがないように気を付けましょう(年間取引報告書が誤った数値になっていないことを祈る)。

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法人税法基本通達2-1-43
(損害賠償金等の帰属の時期)
2-1-43 他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。以下2-1-43において同じ。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。(昭55年直法2-8「六」により追加、平12年課法2-7「二」、平23年課法2-17「四」により改正)

(注) 当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損失の額は、保険金又は共済金によりほてんされる部分の金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。

国税庁:
https://www.nta.go.jp/law/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_01_06.htm
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